水曜日の朝一採血が一番嫌だ。朝の患者数が一番多い水曜日なのに、採りにくい患者が多くて、それだけで採血が滞ってしまう。今日も来たよ、常連さん。

「○○さ〜ん、中へどうぞ」
クラークさん(医療事務の人)が呼んだとき、本気で逃げ出したいと思った。
腕も血管もものすごく細く、さらに頻回採血しているため血管が硬く脆い、とにかく苦労するおじいちゃんだ。
「今日は採れるかなぁ?」
自分がいつも採りにくいことをよく分かっているそのじいちゃん、採血室に入ってくるなりそう言った。
「おはようございます。…どうかなあ」
答えながら苦笑い。気さくなじいちゃんなのが唯一の救いだ。
「ま、ゆっくりやってくれや」
「やだなぁ〜。最近は、どこから採ってるのかな?」
「どこでもいいよ」
「どこからでも採れればねぇ…」
などと会話を交わしながら、血管を探す。いや、よく見えてはいるんだ。細くて、絶対採れそうもない血管。

普通は肘の内側の真ん中の血管で採血できるのが一番いいのだが、そこから採れない人はもっと下の前腕から採ったり、手の甲から採ったりする。
私が以前その患者の採血をしたときは、前腕の手の甲側あたりから採った記憶がある。…絶対痛そうな場所だなぁ。
「前にここから採った気がするんだけど…」
呟きながら、触ってみるものの、皮膚も硬いし、針を刺した跡も消えないくらい残っていて、色素が沈着して黒っぽく変色している。「痛々しい」という表現がまさにぴったりだ。
でも今日も採れそうなのはそこしかない。いや、採れるかどうか、自信はない。

「あんた、うちの娘と名前が一緒だわ」
フルネームと写真入のネームプレートを見て、じいちゃんが言った。
「あ、そうなんですか」
「漢字も一緒だよ。珍しいんだよな、その字で書くの」
「そうですよね〜」
トークで少し、気持ちが和む。採りにくくても、こういう人はやりやすい。しゃべってくれたほうが、答えながら時間が稼げるし、緊張もほぐれる。
ありがとう、じいちゃん。もしかしたら、自分が採りにくいから、わざわざ話をしてくれるのかもしれない。
じいちゃんはその後、娘の話を延々と続けていく。
おかげでゆっくりと、血管を探すことができた。

…そしてトライ。これがなんと、一度で成功。今日は絶好調だ。
「は〜い、じゃ、終わりですね。採れましたよ」
「あ〜良かった。いやもう、毎回たいへんだから」
「うん。私もほっとしてますよ」
「それで、あの時…」
じいちゃんの話、終わらず。
次の患者を入れたいのだが、椅子に座ったまま、まだ話しつづけている。
…ただの話し好きのじいちゃんだった。

私の採血しにくい患者ブラックリストに載っているどこか憎めないおじいちゃんの話。

そしてホワイトデーだということにはまったく気付かず1日が過ぎた。3月14日、給料日前日、助けてくれ〜ほんとに金がない!

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