採血で出会った人々

2001年2月12日
 その日あったこと、感じたことといういわゆる日記以外にも、書きたいことがいっぱいあったのね、私ってば。せっかく空いている日付なので、小話を一つ。

 臨床検査技師は検査目的の採血が許されていて、うちの病院では外来の採血を検査技師がやっている。私のように検体検査を担当する検査技師にとっては採血が患者と直接触れる唯一の機会だ。そんな採血現場で出会った忘れられない人たち。
 
 それは8月のある暑い日、この真夏に黒の長袖のシャツといういでたちで、その患者は現れた。
 「○○さ〜ん」と名前を呼んで、いつもの手順で採血の準備をする。患者は私の前で椅子に座ってから、おもむろにシャツの袖を捲り上げた。
 あっ…! と思ったが顔には出せない。その患者の腕には…模様が…。刺青だ、うわぁ、初めて見た。タトゥーなんていう雰囲気じゃない。同じものだけど、やっぱりこれは「刺青」というのがふさわしい。手首の近くまで総柄のシャツを着てるみたいだ。(もしくは全身タイツ)
 「ちょっときつく縛りますね〜」駆血帯を巻いて、アルコール綿を準備。血管なんか見えやしない。指で触って確認。ふ〜ん、普通の皮膚と、触り心地は一緒なのね…なんて感心してる場合じゃないっ! 血管血管…おお、大丈夫。しっかりしたのがあるよ。
 アルコール綿で消毒。採血用のシリンジを用意して、さぁ刺すぞ、となったとき手の動きが止まる。「あれ? どこ刺しゃあいいんだ?」
 しまった、血管見えないんだよ、模様のせいで。仕方なくもう一度指で触る。よしよし、ここだ、牡丹の花びらのふち。
 「ちょーっとチクッとしますね〜」針を刺す時に私が言う定番のセリフ。しかし心の中では「こいつを彫るほうが痛いだろう」と思ってみたりして。ぷすっ…あ、上手く入った。ホッと一息。
 無事採血が終わり、「お大事に〜」と送り出した後でどっと来た。怖ぇ。そういえばなんとなく雰囲気もそのスジの人っぽい。よかった…上手くいって、本当に。

 あの時の腕に彫られた牡丹の花は今でも鮮明に思い出すことができる。初めての模様体験。私は普通の患者と何も変わらず扱って無事任務を遂行したが、今いっしょに働いている生理検査室(心電図や脳波をとる)の技師さんは上半身裸になったやはり模様つきの患者に思わずこういったそうだ。
 「うわぁ〜、キレイですねぇ」
 言われた方はまんざらでもなかったらしい。今度模様の人に出会ったら誉めてみようか、とも思ったが、私にはできそうもない。

 強烈な人は他にもたくさんいたが、それはまた別の機会に…。 
 

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